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ビッグマック 対 裸のシェフ


Joel Spolsky ジョエル・スポルスキ
翻訳: Yasushi Aoki 青木靖
2001/1/18

謎: なぜ世界で最も大きいコンサルティング会社のいくつかは最低の仕事をするのか?

なぜクールな新興コンサルティング会社が、事業開始早々目を見張るような成功を立て続けに収め、急速に成長し、それから平凡な会社になってしまうのか?

私はこのことを考え、そして(私の会社の)Fog Creek Softwareがどう成長すべきかについて思いをめぐらせた。私が見つけた最高の教訓はマクドナルドから得たものだった。そう、あのでかいハンバーガーチェーンのことだ。

ビッグマックの秘密は、それはそれほどうまくないのだが、どれもがちょうど同じようにうまくない、ということだ。もしあなたがそれほどうまくない人生を望むなら、あなたには絶対に驚かされることのないビッグマックがある。

ビッグマックのもうひとつの秘密は、あなたのIQは(専門用語で言うと)「大バカ」と「バカ」の間のどこかで十分だということで、それでもあなたは世界中の他のどのビッグマックとも正確に同じ非意外性でビッグマックを作ることができる。

マクドナルドの真の秘伝のソースは膨大な操作マニュアルで、それはすべてのフランチャイズがビックマックを作るときに従わなければならない正確な手順を、驚くほどの詳細さで記述している。もしビックマックがアラスカのアンカレッジでフライされる時間が37秒なら、それがシンガポールでフライされる時間は、36秒でもなければ38秒でもなく、ちょうど37秒だ。ビッグマックを作るときには、ただこのくそルールの通りにやるのだ。

このルールは(マクドナルドのハンバーガー大学で) 十分知的な人々によって注意深くデザインされているので、うすのろでも手際のいい人たちと同じようにやれるようになっている。実際このルールにはあらゆる種類の安全装置が組み込まれていて、たとえばフライが油に入っている時間が長すぎるとベルが鳴り出し、人間の弱さを補っている。ストップウォッチとタイマーはいたるところに設置されている。30分ごとにトイレが汚れてないか掃除人にチェックさせるためのシステムさえあるのだ。(ヒント: それは汚れている。)

このシステムは、誰でも相当なミスをするものだという前提で作られているが、出てくるハンバーガーは、そのー、いつもと同じで、そしてあなたは毎度フライもいかがですかと聞かれる。

気晴らしに、一連のルールに正確に従っているだけで料理については何も知らないマクドナルドのコックと、キュートなイギリス人の裸のシェフ、ジェイミー・オリバーのような天才を比べてみよう。(もし今このサイトを去ってリンクをたどり、裸のシェフがバジル・アイヨリを作っているMTVみたいなビデオを見ようと思っているならどうぞ、ご自由に。) 何にせよ、マクドナルドとグルメシェフを比較するのはまったくばかげているが、しかし疑いは一時保留しておいて欲しい、ここから学べることがあるからだ。

さて、裸のシェフは目障りな操作マニュアルなんかには従わない。彼は何も計量しない。彼は料理中に食べ物を乱暴に放り投げる。「ローズマリーをここでちょっと入れましょう、悪いことはないし、懐かしい感じが出ます。」と彼は言う。「これをつぶして。完璧。そこらじゅうにばらまくだけ。」(そう、彼は本当に、それをただそこらじゅうにばらまいているように見える。残念ながら、がそこらじゅうにばらまこうとしてもうまくいかなかった。) 14秒ほどで、彼は基本的に即興で、ハーブを詰めて焼いたスズキのフィレのロースト、サルサ・ベルデ、ベークドマッシュルームポテト添えという完全なグルメ料理を作った。おいしそー。

裸のシェフの料理がマクドナルドで出てくるものよりいいだろうことは疑う余地がないと思う。しかし、たとえそれがばかげた質問に聞こえるとしても、なぜか、と問うことには意味がある。それにこれはそんなにばかげた質問というわけでもない。膨大なリソース、途方もない規模、金で買える限りで最高のフード・デザイナ、そして際限ないキャッシュフローを持ちながら、なぜ大企業にはうまい料理が作れないのか?

裸のシェフがテレビに飽きてレストランを開いたとしよう。もちろん彼はすばらしいシェフだから、料理はすばらしいし、店は客で溢れかえり、非常に高い収益を上げるだろう。

あなたが超高収益のレストランを持っていた場合に、あなたはすぐあることに気づくだろう。たとえあなたが毎晩店をいっぱいにし、オードブルで$19、コカコーラで$3.95ふんだくったとしても、一人のシェフにはそんなに多くの料理は作れないので、あなたの収益は自然な限界に達するということだ。そこであなたは別なシェフを雇い、別な町にも支店をいくつかオープンするかもしれない。

そうすると問題は拡がり始める: 私たち技術畑の人間がスケールの問題と呼んでいるものだ。あなたがレストランをクローンするとき、選択を迫られることになる: あなたくらい偉大なシェフをもう一人雇うか(この場合、そのシェフはたぶん彼の生み出す余分な収益のほとんどを要求するだろうから、問題外だ)、あるいはあなたほど優れているわけではないが、もっと安くて若いシェフを雇うか。しかしあなたの顧客はすぐにそのことがわかってクローンレストランへは行かなくなるだろう。

このスケールの問題を扱う一般的な方法は、何も知らない安いシェフを雇い、それぞれの料理の作り方について、失敗し得ないほど緻密なルールを彼らに与える、というものだ。そのルールに従ってさえいれば、すばらしいグルメ料理が作れる!

問題: それはあんまりうまく機能しない。良いシェフがすることは何百万とあり、それは即興で行われるものだ。良いシェフは市場ですばらしいマンゴーを見つけ、その日の魚料理のためにマンゴー・シラントロ・サルサを即興で作る。良いシェフは一時的なポテトの不足をタロイモチップなるものを作って補う。手引書に従っているだけのロボットシェフは、すべてが完全に機能しているときには与えられた料理を作ることができるが、本当のスキルと才能がなければ即興というのはできず、それがあなたがマクドナルドでクズイモを見ることのない理由だ。

マクドナルドは特定の種類のポテトだけを使い、彼らはそれを世界中で栽培しており、品不足をやり過ごせるように膨大な量があらかじめ切って冷凍保存されている。あらかじめ切って冷凍されているので品質は落ちることになるが、それは確かに一定しており、シェフのスキルを必要としない。実際マクドナルドには一貫した品質で製品が作られるようにするための何百もの仕掛けがあり、その品質が「多少」低いにしても、キッチンにいるのがどんなバカでも差し支えないというほどになっている。

ここまでのまとめ:

  1. ある種のことは本当にうまくやるには才能が必要だ。
  2. 才能をスケールするのは困難である。
  3. 人々が才能をスケールしようとしてやるのは、才能ある者に作らせたルールに才能のない者を従わせる、ということだ。
  4. 結果として得られるものの品質はとても低い。

ITコンサルティングにおいてもまったく同じことが行われているのがお分かりいただけると思う。こんな話を何度聞いたことがあるだろう?

マイクは参っていた。彼は大きなITコンサルタント会社にシステムを依頼した。そのITコンサルタントは「メソドロジー」の話をするばかりの無能者で、何百万ドルも使いながら、なにひとつ作れなかった。

幸運にもマイクは、とても頭のいい才能ある若いプログラマを見つけた。その若いプログラマは$20のギャラとピザだけでシステムを丸ごと、一日で作り上げた。マイクは非常に喜び、友人たちにもその若いプログラマを勧めた。

「若きプログラマ」は大金を稼ぐようになった。彼はすぐに自分でできるよりも多くの仕事を依頼されるようになり、一団の人々サポートに雇った。優秀な連中はあまりに多くのストックオプションを要求するので、彼は大学を出たての若いプログラマを雇うことにし、6週間のコースで彼らを「トレーニング」することにした。

問題はこの「トレーニング」が一貫した結果を生み出さなかったことで、そのため「若きプログラマ」はもっと一貫した結果が得られるようにルールと手順を作り始めた。何年にもわた ってルールブックは成長し続け、すぐにそれはザ・メソドロジーと呼ばれる6巻のマニュアルになった。

数十年後、「若きプログラマ」は今や大文字Mのメソドロジーで知られる、巨大で無能なITコンサルタントとなっており、それが機能しそうにないときでも人々は盲目的にそのメソドロジーに従っていた。というのは彼らは他の考えというのは何も持っておらず、それに彼らは本当に才能のあるプログラマというわけではなかったからだ。彼らはただの政治学専攻の善良な人々で、6週間コースを聴講したのだった。

この新しい巨大で無能なITコンサルタントは混乱し始め、その顧客はみな不幸だった。そして別な才能あるプログラマが現れ、彼らの仕事をすべて奪い、そして新たなサイクルが始まる。

彼らを名指す必要もないだろう。このサイクルは10回となく起きてきたことなのだ。すべてのITサービス企業というのは貪欲で、彼らが才能ある人々を集められるよりも早く成長しようとし、すばらしいとは言わないまでも一貫した製品を作り出すための、ルールと手続きを幾重にも成長させる。

しかしルールや手続きというのは、何もまずいことがない場合にのみ機能する。様々な「データベース連動Webサイト」コンサルティング会社が過去2年間に急成長し、データベース連動Webサイトを作るための14ステップをアマチュアたちに教えて彼らの同類を増やした(ここにselect文があるね、さあ、Webサイトを作って)。しかし今やドットコムは崩壊し、突然ハイエンドGUIプログラミングとC++のスキルと真のコンピュータサイエンスが要求されるようになり、武器庫にselect文しかないちびっ子は、急すぎるラーニング・カーブに直面して、キャッチアップすることができない。それでも彼らは依然ルール集の第17章にあるデータベース正規化に関するルールの通りにやってみるが、不思議なことに新世界では通用しない。これらの企業の聡明な創業者たちなら新世界に合わせて修正することもできた。彼らは才能あるコンピュータサイエンティストで、何でも学ぶことができたのだが、彼らが作った会社のほうは修正がきかない。なぜなら才能をルールブックで置き換えてしまったからで、ルールブックは新しい時代に適応できない。

何がこの物語の教訓だろう? メソドロジーには気をつけろ。それは陰鬱だが誰をもまずまずのレベルのパフォーマンスに引き上げるすばらしい方法だ。しかし同時に、もっと才能のある人々はその制約にイライラする。才能あるシェフが、まさにそのルールがに、マクドナルドでバーガーを作っていて楽しくないだろうことは、まったく明らかなことに思える。それではなぜITコンサルタントは彼らのメソドロジーを自慢するのだろう? (私をぶって)

これはFog Creekにとっては何を意味するのだろう? 私たちが大きなコンサルティング会社になろうとしたことはない。私たちはコンサルティングもしているが、長期目標は常に高い収益を上げられるソフトウェア会社になることで、それを達成するために、私たちはソフトウェア収入をコンサルティング仕事で補っている。ソフトウェア収入が支出に追いつくまで、私たちはコンサルティングを続けるだろう。そして、その時点でも私たちはまだコンサルティングを続けているだろうが、契約を選べるようになっているだろうし、私たちのソフトウェアをサポートするコンサルティング契約にフォーカスしているだろう。ソフトウェアは、ご存知のように、非常によくスケールする。誰か新しいユーザがFogBUGZを買うとき、私たちは余分な支出をせずに収入が得られる。

もっと重要なことは、最高の人間を雇うことへの執着だ・・・十分優秀な人間が見つけられないなら、小さいままで十分満足だ(1年につき6週間の休暇を使えば、人を見つけるのはそれほど難しくはない)。そして私たちは、すでに雇った人々が十分に学んで新しい人々の教師や指導者となるまでは、成長することを拒む。



この記事の原文(英語)は Big Macs vs. The Naked Chef です。 

ジョエル・スポルスキは、ニューヨーク市の小さなソフトウェア会社  Fog Creek Software の設立者です。イェール大学を卒業後、マイクロソフト社、Viacom社、 Juno社でプログラマとして働きました。


このページは著者の個人的な意見を掲載したものです。
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